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2025.09.08
害虫・害獣トラブルにどう備える? 賃貸人の適切な対応が損害賠償を防いだ裁判例
賃貸経営において、「ゴキブリが出た」「ネズミがいる」といった苦情は避けがたいものです。入居者からの申告があれば、すぐに賃料減額や損害賠償を求められるのではと不安を抱くオーナー様も多いのではないでしょうか。しかし、近年の裁判例を見ると、賃貸人が一定の対応を講じていれば、損害賠償責任を否定する判断がなされることが少なくありません。
もちろん、判断はあくまで個別事案に基づくものであり、すべての請求が退けられるとは限りませんが、借主からの申告に対して誠実な対応を行っていたかどうかが重要な判断材料となるのは確かです。裁判例を確認しましょう。
①ゴキブリと清掃をめぐる請求(東京地裁 令和3年7月30日判決RETIO No.130)
築30年以上・家賃月6.2万円のアパートに入居した借主が、「清掃が不十分」「室内にゴキブリがいた」「IHコンロが使えなかった」として、退去時のハウスクリーニング費用、休業補償、設備不良の損害賠償、慰謝料など計60万円を請求した事案です。
賃貸人は、原状回復工事と清掃を実施済みで、入居後の申出にも対応して追加清掃・設備交換も行っていました。裁判所は「築年数や家賃水準を踏まえれば、居住に支障がある状態とはいえない」として、賃貸人に債務不履行は認められないと判断。借主の請求を棄却しました。
②ねずみ被害と防除対応(東京地裁 令和3年1月26日判決/RETIO No.127)
歯科医院として使用していたテナントにおいて、借主が「ねずみが天井裏を走っていた」「隣室がゴミ屋敷だった」などと主張して契約を解除し、営業損害等4,300万円超の損害賠償を請求した事案です。
賃貸人は、合計29回の防鼠作業を専門業者とともに実施し、隣室への調査協力も繰り返し要請していました。裁判所は「賃貸人としての立場で可能な限度において、同業者の当該調査に協力していたと評価することができる」等として、借主の請求を棄却しました。
③虫の大量発生と健康被害の主張(東京地裁 令和元年9月20日判決/RETIO No.119)
入居直後に虫(シバムシ)が大量に発生し、喘息持ちの借主が駆除作業の薬剤で体調を崩したと主張して、賃貸借に要した費用、退去費用、宿泊費、治療費や慰謝料等約365万円を請求した事案です。
賃貸人は、通報直後から応急対応・専門業者の手配・再調整を誠実に実施しており、「必要な対応を行っていたと認めるのが相当で、賃貸人が虫の調査やその駆除を適時に行わず・・・義務を怠ったと認めることはできない」等として、請求を棄却しました。
■害虫トラブルは「対応」が鍵
上記の裁判例はいずれも、賃貸人が「発生後にどう対応したか」が重要な評価ポイントとなりました。トラブル自体を完全に防ぐことは難しくとも、賃貸人として、遅れることなく必要かつ可能な対応を行っていくことが実務上重要です。
弁護士法人 一新総合法律事務所
弁護士 大橋 良二 氏