トピックスTOPICS
2025.08.11
エアコン不具合と賃料減額 改訂ガイドラインと裁判例に見る賃貸リスク
夏季におけるエアコンの故障は、借主との間で賃料減額や損害賠償を巡るトラブルに発展するケースが少なくありません。物件の通常使用ができない状態であれば賃料の減額が、場合によっては債務不履行に基づく損害賠償が問題となる可能性もあります。
では、具体的にエアコン故障ではどのように賃料が減額されるのでしょうか。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)は2024年10月、「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」を改訂し、エアコン故障時の扱いが見直されていますので、これを確認しておきましょう。
【ガイドライン改訂のポイント】
従来、エアコンの作動不良時における賃料減額の目安は「月額5,000円」とされていました。しかし、2024年10月の改訂により、賃料の「10%」を基本とし、「※発生した季節・地域、間取りや設置台数等を考慮し、必要に応じて賃料減額割合を調整する。」という柔軟な方式へと変更されました。ガイドラインは法的拘束力を持ちませんが、賃料減額交渉の現場で、実務上重要な判断基準とされており、オーナー様としても内容を把握しておくことが求められます。
このように、ガイドライン上は10%が基準ですが、実際の裁判ではどのように判断された例があるのでしょうか。
【裁判例:東京地裁平成26年8月5日判決】
実務における参考例として重要なのが、東京地裁平成26年8月5日判決です。この事案では、カイロプラクティック施術所として使用されていた賃貸物件において、真夏の8月6日から24日までエアコンが使用不能となり、室温が33度を超える状況が続きました。裁判所は、該当期間について「建物の通常使用ができず、契約目的が達成できない状態にあった」と認定し、19日間分の賃料については支払義務がないと判断しました。
当時は日管協のガイドラインはありませんでしたが、ガイドラインのように賃料の10%程度ではなく、当該裁判例では当該期間について賃料を100%免除しています。確かに真夏でカイロプラクティックのエアコンが故障していれば、物件がまったく利用できず使用収益できなかったと判断されることも理解できるところです。
このように、エアコンが使用できない期間が生じた場合、一定の条件下で賃料減額が認められる可能性があり、場合によっては、賃料を請求できなくなるような可能性もあります。エアコンのような生活インフラ設備の不具合は、賃貸経営における重要なリスク要因の一つとして、早急な対応があらかじめ認識しておくことが大切です。
弁護士法人 一新総合法律事務所
弁護士 大橋 良二 氏