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2021.02.08

入居者に対する自殺などの 心理的瑕疵の告知義務について

年が明けて新しい賃貸借契約を締結する機会の多い時期です。ここで、所有物件で自殺や事故などが発生した場合に、新しい入居者と賃貸借契約を締結する際に告知すべき義務があるか、いわゆる「心理的瑕疵の告知義務」のについて、確認しましょう。

 

現状では「明確なルールがない」というのが答え

 まず、自殺や事故、事件が発生した場合、そのことをどこまで告知しなければならないか、という告知義務については、「明確なルールがない」というのが現状です。

 ですが、大まかであっても裁判例の傾向を知っておくことは重要です。今回は、その中でも「賃貸」に関する自殺等の心理的瑕疵についての告知義務について確認しましょう。

 

知っておきたい5つのポイン

①賃貸物件の一室で自殺があった場合、次の入居者に告知義務はあるか?

→ 一般的には告知義務があるといえます。

 

②自殺があった部屋で、一度、入居者が入って退去した後、次に借りようとする入居者に対して告知義務があるか。

→ 告知義務はない、とする裁判例が散見されます。もちろん、ごく短期に賃貸するなどの脱法的な行為では、告知義務を免れることはできないと考えられます。

 

③では何年程度経てば、自殺等の告知義務はなくなるのか。

→ 一般的に何年ということはいえませんが、都市部のワンルームマンションの自殺のケースで「2年程度」という裁判例があり、参考とされます。

 

④隣室での自殺について告知義務はあるかどうか。301号室で自殺があったことについて、隣室の302号室を賃貸の際に告知義務があるか。

 → 一般的には自殺のあった居室の隣室等については告知義務はないと考えられます。

 

⑤自然死の場合には告知義務違反があるか?

 → 自然死については、通常、告知義務はないと考えられます。

 

おわりに

 以上のとおりですが、誤解のないように再度、お伝えすると心理的瑕疵の告知義務について明確なルールはありません。裁判例上の傾向は上記のとおりであっても、知らずに入居して、後に自殺等の事実を知ったことがクレームとなり、トラブルとなるケースは少なくないようで、私のところにも毎月のようにご相談があります。

入居者との間でこのようなトラブルとなることそれ自体を避けるべきものであることを認識し、賃貸経営を進めていきましょう。

 なお、この心理的瑕疵の告知に関する問題については、国土交通省において、「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」が開かれ、心理的瑕疵に係る適切な告知、取扱いに係るガイドラインの策定に向けた検討が行われています。また最新情報が入り次第ご紹介したいと思います。

 

弁護士法人 一新総合法律事務所

弁護士 大橋 良二 氏

 

※なお、これらは自殺があった物件の所有者から、賃借人の相続人や連帯保証人に対する裁判の判決の中で、損害賠償の範囲を限定する判断理由として告知義務が否定されていることが多く、告知義務そのものの有無が争われたばかりではないことに注意が必要です。

(一財)不動産適正取引推進機構 調査研究部 調査役 中戸康文

 

【参考文献】

※RETIO.2011. 7 No.82 心理的瑕疵についての裁判例について 

※RETIO.2019.1 No.112 続・心理的瑕疵についての裁判例について

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